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憲法改正について
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   憲法改正について・・・自民党の改正草案には危険があります

 日本の憲法96条によると“衆議院、参議院の両方の2/3の賛成で国民投票となり、国民の過半数の賛成で改正される”とあり、憲法を安易に改正できないようにしています。

 少しずつの違いはありますが、おおよそ2/3としている国にはアメリカ、ドイツ、スペイン、オランダがあり、1/2としている国にはフランス、デンマークなどがあります。

 今の憲法は国民が決めたものではなく戦後の戦勝国からの押し付けであるという意見と、自衛隊の規定が憲法にはないので国防軍と規定したいというのが主な理由で、前回の衆議院選挙で憲法改正に賛成の議員を2/3得た自民党安部政権は、次の参議院選挙で2/3の議員を確保することで憲法改正を目指すとしています。


 第一次世界大戦後のドイツには当時では進んだ国民の人権を保障したワイマール憲法がありました。ヒトラーは“ナチ政府自体が法律を制定できる”、さらに“ナチ政府の制定した法律は・・・憲法に違反することができる”とする全権委任法を作ることで、ワイマール憲法を骨抜きとしました。憲法違反でもOKなんて誰が考えてもおかしいですよね。その段階で勇気があれば憲法違反で無効だとも言えるのです。憲法がもしも改正しやすければ、改正したほうが正当ですから得だったに決まっています。正当であることを諦めたという点で、ヒトラーですら改正しにくい憲法は無視しがたい存在だったといえるのです。

 だから私は大きな問題がなければ憲法は改正しにくいほうが望ましいと思います


 ただ別の章に書きましたが、個人的にはこれだけ国民から認知された大きな組織である自衛隊が憲法のできたときに存在しなかったために何も触れられていないことに対しては、従来のように“個別的自衛権は国連憲章でも認められている”という解釈で憲法をそのまま変えなくても認知が可能だとは思いますが、国権の発動たる戦争という9条の文言の前に一言“自国の自衛を除く”とすれば、自衛隊の存在がより明確となるようには思います。

でもこれらはあくまで考え方のレベルです。


 先日自民党が憲法改正の草案を発表しました。現行憲法よりも政府の義務や責任、国民の権利をあいまいにするようなニュアンスを感じますが、それよりもこれは危険だから、してはいけないと思えるレベルのものがあります。

 その99条には“緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる(後略)”という言葉があります。政府が法律を制定できるという点でヒトラーのケースに似ていますが、とにかく緊急事態を宣言すればある意味オールマイティーになれるのです。98条では“わが国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態”とあります。その緊急事態が何かは法律で決めますというのです。国民が従うべき法律の決め方は憲法に明記されていますが、ヒトラーの全権委任法と同じような政府が三権分立を壊して、国民が従うべき法律を作ることができる抜け道を作ったということです。

 過去ミグの領空、外国艦船の領海侵犯や、大規模地震に対して、避難勧告まで含めて現在ある法律の下で現実に対応してくることができました。2003.4年には有事立法ができました。それでも宇宙人が来た?などといった想定外のことは起こりえます。その時もしも国民にとって重要な決定を緊急で下す必要があると心決めたら、私なら実行し、落ち着いた段階で速やかにその罪を国民に問い、それに従います。政治家になればそうであるべきだという覚悟はしています。この草案を作った人たちは、日本の国民が自分たちのために真実働いた人にひどい仕打ちをすると思っているのでしょうか?たとえそうであったとしても、それも受け入れた政治家として働くだけの覚悟もないのでしょうか?

 さらにこの98条にはこの宣言は国会の事後承認でも良いとあります。でももしも事後に承認されない可能性を考えても宣言するということは、たとえ承認されず憲法違反になっても国民にとって必要だから実行したということで、先に述べた99条がなかったときと全く同じ覚悟をしているということになります。そこには逆に可能なかぎり現在の法律の下で行おうとする努力をしなくなる危険性があるのかもしれません。

 さらにこれを将来の誰かが悪用しようと思えば、緊急事態宣言をして、その下で反対する国会議員を逮捕できる法律をつくるなどで承認期限の5日以内に議員資格を剥奪して過半数を獲得し、ヒトラーがしたように事後承認をするような国会にしてしまえばよいのです。そうすれば100日の更新を繰り返して長くオールマイティーにもなれるのです。

 以上をまとめると緊急事態にたいしては現行の法律下でもそれなりに対応が可能であったし、さらに政治家の資質によっても対応はできる。将来の緊急事態に何が含まれるかを厳密に規定することは絶対にできないし、それを曖昧にすれば将来悪用が可能になるということです。

 自民党草案のような危険な抜け道のあるような憲法を作ることには絶対に反対です。

 

ですから私は今後のためにも衆議院選挙に合わせて直接に国民の投票によって憲法改正そのものに対しての意見を確認すればよいと思っています。憲法改正の内容についてはその次の段階で十分だと思っています。聞き方としては

1.憲法の改正に①賛成ですか?②反対ですか?

とするか、自衛隊の重要性を考えて

2.①憲法全体を改正する

②憲法9条だけを“自国の自衛を除く”国権の発動たる戦争へと改正する

③憲法を改正しない

でしょうか。私個人は1.①か2.②で、少なくとも自民党の草案には絶対に反対です。

そしてこの国民投票の結果がもしも改正反対であれば、以後この憲法が戦勝国の押し付けであるという意見は消えます。その意味でも意義のある投票だと思います。別の章に書きましたが世界平和への“さきがけ”となりうる憲法9条のように誰が作ろうとイイものはイイのです。

 

 

PS:国民の福祉について

現在の憲法25条には“すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない”とあり、さらに99条には“天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ”とあります。

一方今回の自民党の草案では現在の憲法12条にある“国民は、これ(自由及び権利)を濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ”が“自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない”と国民に義務が追加され、25条で“国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない”と追加されています。

つまり現在の憲法では国民には福祉(最低限度の生活をする)を受ける権利があり、それを達成することが国の義務であるということから、草案では国民にも協力する義務を負わすことで国の義務としての負担を減らした印象です。国が借金がいっぱいで福祉を維持することが大変なのに、収入を消費税で増やそうとしても文句を言われる。これで福祉はあんたたち公務員の義務だよなんて言われたら“やってられないよ”・・・“あんたたちがやらんなら、わしらもやらん”といったところでしょうか。気持ちとしてはよくわかります。さらに“競争社会”か“福祉社会”か?と会社についてのところに書きましたが、長い目で見れば人は楽をしようとしますし、会社は儲けようとするということを考えれば、自然に任せた場合今後雇用は減り、国の収入も減るだろうと思われ、抜本的な改革をしなければ福祉を維持することが今後ますます大変になることが予想されます。ですから自民党の草案に言うように、国と国民が協力することが大切なのは間違いありません。でも大切なことはその現状をきちんと国民に説明して、だからどうして行こうかと問いかけることにより真に協力していくことであって、責任の一部負担をこっそりと改正の言葉の中に紛れ込ませては、まるで国民をどうせわからないだろうとバカにしているか、あるいは今後福祉を減らす準備とするなどの何か悪意があるのではないかと思われてもしかたがないのだと思います。

一番大切なことは、実際に国と国民が協力して良好な環境(幸せ)を作ろうとすることであり、そのためにはまず何を実現可能な良好な環境として共通の目標とするかを決めることだと思われます。

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