循環器内科開業医の病気、世の中、生きる悩みについての独り言です


TPPは日本にとって危険かも
このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote

     TPPは日本にとって危険かも・・・生きていくのに必要なのは?

 この世の中にはいろいろな人がいるという事実があります。
 そしてこの世には理不尽と思えるような苦しみが起こりうることも事実です。

 何もないところに一人とり残されたとき、あなたに必要なのは“お金”“食べ物”どちらですか?という二択の質問をされたら、救援がいつ来るかは不明という条件があれば後者を選ぶ人が大多数だと思います。それは“食べ物”がなければ生きていられる時間は数日であろうし、その間の飢餓の苦しみはとても辛いものだろうからです。この二択を繰り返したときに、やはり“食べ物”は生きるのに必要なものとして最終的に上位に残りうるだろうと思えます。

 あなたは自分自身が本当に飢えているときに、それを分け与えることができますか?もしも自分の子供が飢えていてもできますか?いろいろな人がいるだろうと思います。でも子供の苦しみを見ているのは本当に辛いだろうと思います。私は分けることができないだろうと思います。自分にできないことを他人に期待することは難しいことです。ですから最低限の自助の努力をしておくべきだといえます。

 あなたが本当に飢えていたら、畑になっているトマトを盗んでしまいませんか?戦後にある裁判官が闇市は違法だから利用しないとして餓死したことがあったそうです。私はその人が飢えの苦しみを超えて自分の信念を守ったという点で“すごい人”だと思います。でももしもそれで子供が餓死することがあれば、それは間違いだと思います。裁判官を辞めても、人間を辞める必要はないと思います。“飢え”はひとを通常はしない“悪”へ走らせるかもしれず、それは社会を不安定にしてしまいます。政治とは少なくともひとを“獣”にしないものであるべきだと私は思っています。これを私は“生きるための安全保障”と呼ぼうと思います。

 阪神大震災や東日本大震災での日本人の振る舞いに対して、多くの国から賞賛の声が寄せられました。少なくとも“獣”が現れたという話を聞きません。ではそれは日本人が元々そのような礼儀正しい人種だったからでしょうか?でも関東大震災後にはいろいろな事件があったと聞いています。私は他人を思い遣る気持ちを心の奥底に今なお維持している国民性があるだろうと勿論思っています。でも“数日頑張ればきっと助けがくる”と信じる気持ち、情報がそれを支えてくれたのではないだろうかと思っています。私は“余裕”というものが大切だと信じています。

 日本は島国です。これを変えることはできません。“島国の特性 を別に書くつもりですが、原材料を輸入して、製品を輸出する“貿易立国”が日本の唯一生きる道であると学校では教えられてきました。でも島国であるから、地続きの国での陸送と異なり、海運による大量の物資輸送には限界がありますし、輸送にはコストが当然多くかかってしまいます。それなのに何故今まで“貿易立国”でやってこられたのか?それは技術力の差と製品への信頼を積み重ねることで“メイド・イン・ジャパン”というブランドを作ってきたからです。でも輸送コストに加えて人件費の増加を、そして国力の増加に伴った円高を、先ほどの技術力などの差ではいくら努力しても埋められなくなってきたのであって、そうなるのは当たり前であったと言えます。だって昔長く1ドル360円の時代に1ドルであった同じものが1ドル90円の今4ドルでは買ってもらえそうにはありません。“会社というもの”を別に書くつもりですが、海外に生産拠点を移すことで生き残りを図る企業があることがその証拠です。彼らはこのままでは無理だと悟ったのです。そして結果、人件費の安い国においても信頼できる製品を作ることが可能であることを彼らは自ら証明し、同時にそれなりのレベルの技術を海外へ持ち出したのです。会社の存続に必要であったとは言え、長い目で見れば彼らは自分で自分の首を絞めたといえます。

 

 TPPとは関税や関税以外の検疫などを撤廃して、貿易において自由競争にしようというものです。自国の会社が車1台を1000円で売っているときに、日本が800円で車を売ろうとしたら自国の企業が負けてしまいます。だから日本の車には例えば300円の関税を上乗せすることで自国の企業を守ろうとします。つまり関税とは自国の企業や組織などを守ろうとして考えられた仕組みなのです。

 勿論関税がなくなれば日本の輸出力は例えば対アメリカ企業では絶対に強くなりそうです。でも他国も同様に強くなるのです。もしもメキシコが同じレベルの車を安く作ればどうなるでしょうか?東南アジアへの生産展開で証明されたように、ものづくりの力に成長があるとすれば、このTPPによる利点は一時的なものでありうるのです。

そして現時点でも日本の食料自給率は島国なのに50%以下です。食用の穀類では2010年で34%です。もしも日本全体を覆う大規模災害が起こった場合、他国からの海上輸送に限界があるとすれば“余裕”をすぐに失いそうです。まして災害が世界規模であったときには真っ先に飢えに襲われる悲惨な国になるかもしれません。

TPPにより神戸牛のようなブランド品はより儲けを生むかもしれません。しかし小規模な農家が多いためにコストダウンを図りきれない多くの農業は関税などの支え(お米にはなんと778%の関税がかかっています)を失えば今よりさらに衰退する可能性が高いのです。検疫にしてもやっかいな病気が入り込めば、島国であるゆえに病気は拡がりやすく農業は壊滅的な被害を受けるかもしれません。“生きるための安全保障”にとって、いざという時に必要なものは高価なブランド品ではなく、日々必要な安いものなのです。

楽に生きていくには”を別のところに書くつもりですが、私はアメリカは頭のよい国だと思います。農業など生きるのに絶対に必要なものは確保しておく(アメリカの食料自給率は約120%)。絶対に必要といえない車やテレビなどは安く買えればよい。たとえ企業がつぶれてもよいとまで割り切ってもよい。他のところで儲ければよいのです。“ものづくり”だけで生きていこうとする国たちが競争すれば、より楽に生きていけるのです(私はものづくりを決して軽視しているのではなく、むしろ生きていくのに必要な実業であると評価しています)。

TPPはその国が決めるものです。あなたは自分が損をするとわかっていて、相手にそれを勧めますか?全体のためになるのなら目をつむって少しは勧めるかもしれません。でも自分が得をすると思えば、勧め方も積極的になるでしょうね。アメリカは日本に対してTPPを強く勧めているようです。

 最後にもう一度、TPPは自由競争だという人たちがいます。それは絶対に違います。日本は島国です。だから貿易におけるハンデを元々もっており、輸出にとって今は得があってもそのTPPの得は一時的かもしれません。そして日本にとってTPPは“生きるための安全保障”を危うくしかねないのです。

 だから私は農産物も含めたTPPには絶対に反対です。

 

PS313日の新聞に政府は食料自給率を農業政策の重点指標から変更することを検討しているとありましたが、これこそがTPPによって食料自給率が下がることを予想している証拠だと思えます。

                   ”生きるための安全保障”へ         
                   このページのトップ

                   トップページ目次