循環器内科開業医の病気、世の中、生きる悩みについての独り言です


”競争社会”か”福祉社会”か?
このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote

 競争社会”か“福祉社会”か? ・・・ 雑感

 今日49日イギリスのマーガレット・サッチャー元首相の訃報を耳にしました。

 “福祉社会”を目指している私がサッチャーさんを政治家として尊敬していると書いたら驚かれるかもしれません。“国際法が力の行使に打ち勝たねばならない”とした姿勢も好きです。でも彼女は私の学生時代“ゆりかごから墓場まで”と表現されたイギリスの“福祉社会”に対して競争原理を持ち込み、民営化などで“小さな政府”を目指しました。私と方向は正反対です。でもそこには“福祉社会”の持つ問題点が出ているので雑感として書かせていただきます。

就任3年目のフォークランド紛争が彼女の11年という長期政権に大きな影響があったとは思いますが、彼女は長い目で見たとき、結果としてイギリスにとって非常に大きな問題であった財政赤字を解消し、“福祉社会”の問題点であるマンネリズムを打破しました。でも彼女の政策によって苦しんだ人も多かったことは事実です。たとえば失業者は300万人を越えたそうです。また医療費の抑制などで退任12年後の2002年で外来、入院待ちの患者さんは100万人を越えたそうです(私は彼女なりに医療を大切にしていたとは思っています)。結局政策にはゆれ戻しがありましたが、産業の構造改革が行われ特に金融において今もイギリスは力を持っていると言えます。私がサッチャーさんを尊敬する理由は、大きな流れを見据えて、行くべき目標を定め、そのための方法を選び、そしてそれを実行し、それによって結果として長い目で見たときのイギリスを救ったと思われるからです。

 

福祉社会”の最大の問題点はマンネリズム

もしも理想的な共産主義があれば、それは“福祉社会”といえるのかもしれませんが、共産主義は結局資本主義に負けました。競争原理があるほうが効率化が起こりやすいのは事実でしょう。人間は楽な状態にあればより頑張ろうとあまりせず、その既得権である楽なレベルを下げることにはかなり抵抗するものかもしれません。マンネリズムといえます。収入より福祉の支出が多くなれば、その赤字は膨らむばかりとなります。サッチャーさんが首相になったときは、労働組合が強くまさにそういう時代でした。

福祉社会”においてはマンネリズムに陥らず、進歩を得ようとするにはどうすれば良いかは常に大切な問題で、はじめからそれに対応するシステムを用意しておくことが必要だと思います。

“競争社会”での政治は放任主義というのは言いすぎですが、基本的に介入せず民間に任せるということです。そしてイギリスは2つの方向の中を乗り越えてきました。


では“競争社会”と“福祉社会”との間を適宜揺れ動くことで今後も何とかうまくやっていけそうでしょうか?・・・私には無理だと思われます。

今の日本は現在どこにいて、どちらを向こうとしているかもわからないレベルで揺れ動いている状態だと見えます。イギリスは福祉、競争、そして揺れ戻しと方向を見据えながら進んできました。では見据えればそのユラユラでいつまでもやっていけるだろうか?そこには他国との関係や全体との関係が影響すると思います。でも大きな流れを考えれば、例えば雇用は間違いなく減る方向へ行くと思われます。人は“幸せになりたい”と思って進歩してきました。その“幸せ”はお金であったかもしれませんし、その中には“しんどい仕事より楽がいい”もあったでしょう。昔はいっせいに並んでしていた腰の痛くなりそうな田植えを機械が簡単に効率よくやってくれたから田植えの仕事をするのに必要な人は減りました。介護、医療、教育、警察など人手が今後も必要そうな仕事を思い浮かべて見てください。新しい人手のいる仕事として宅急便は便利でありがたいです。でも雇用を確保してくれたことが一番ありがたかったと私には思えます。翌日の荷物到着は絶対必要ですか?宅急便に多くの方が働いていることこそが雇用が減って人手が余っている証拠だと思います。

 雇用が全体として減ってしまえば“福祉社会”は成り立たなくなりそうです。“競争社会”でも一人勝ちになれば停滞が見込まれます。さて雇用の競争で負けた失業者は?失業者がものすごく多ければ?どうすればよいのでしょう。

例えば労働組合は組合員である正規雇用と非正規雇用で対応に違いがあるように見受けられます。日本医師会も医療のためと医師のためにズレを感じることがあります。自分がかわいい・・・人間とはやはり基本的にそういうものだと思います。だから政治を自然の流れに任せるのではなく、できるかぎりの中での全体の幸せを考える目を政治に持った“福祉社会”が必要だと私は思うのです。

                   このページのトップ

                   トップページ目次